ミソラノオト

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息子の試験も終わり
お疲れさま、ということで外にご飯を食べに出た。

家族3人そろうのは久々で
それでもう「特別な時間」な感じがしたけれど、
おつまみに頼んだ川海老の唐揚げを食べたとき
その味に
一気に、子どもの頃の「特別な時間」の記憶がよみがえった。


この「特別な時間」の記憶は父がいた時間だ。



父は長いあいだ単身赴任をしていたけれど
月に何度か帰ってくる日があった。

帰ってくる日は
母は沢山の料理を作り、
私たち姉妹は念入りに家の掃除をした。
父はとても厳しくて、
部屋が汚れているとものすごく怒られたから。

小さい頃から父が家にいなかったので
私は接し方がわからず
部屋を念入りに掃除する一方、
これを置いたらお父さんは喜ぶかしら、と
お気に入りのぬいぐるみを茶の間にそっと置いては
「おもちゃを置きっぱなしにするな!」
と叱られ、
カーテンに隠れて泣いた。

不器用な子どもだった。
お父さんが帰ってきて嬉しい、の気持ちを現すのが下手だった。


それでもいつもより賑やかな食卓は嬉しくて
父のために並んだおつまみを少し味見させてもらっては
食べたことのない味に心が華やいだ。


その時間のことを思い出した。


「この川海老は土曜の夜の味がする。 
 お父さんが帰ってくる日の味だ。」

と思わず言葉に出たけれど
夫も息子も意味がわからず
なに、それ、と笑っていた。
でも、私はその時間に触れてしまったから
胸の奥がぎゅっと苦しくなった

記憶が
味で、香りで、皮膚感覚で
立体的に思い出されてしまった。


父が帰ってくる日のことは
「また叱られるかも」
とビクビクした記憶の方が濃いように思っていたけれど、
思い出してみたら
自分がどんなに父に会えるのを楽しみにしていたか
どんなにそれが特別な時間だったか、がわかった。
わかり過ぎてしまった。


叱られてばっかりで
置いたぬいぐるみも、
伝わらなくてカーテンにくるまって泣いたのも
思春期になって
私はお父さんに嫌われているから、と
思いこむことにして逃げたあの日々のことも、
ぜんぶ根っこにあったのは
「お父さん、こっち向いて」で
「お父さん、大好き」
だった。


表現の仕方がわからず隠れていた気持ちが
どんどんとむき出しになってくる。


私はお父さんが大好きだったんだ。




そんな父もひと月前に天国へ旅立ってしまった。


夕焼けの中に三日月が輝き始めたころ
静かに旅立ってしまった。




私は親に対してだいぶ拗らせた想いを持っていたから
ずっとずっとその気持ちをほどくのが大変だったけれど、
その旅ももう終わって、
この十数年はとても平和だった。

怖がらず、遠慮せず
父となんでも話せるようになって、
帰るたびに父をマッサージしたり、ドライブしたり
安心して「娘」として生きた。

拗らせていた時間の方が長かったかもしれないけれど
それでもこの十数年は幸せだった。
いや、ずっとずっと幸せだった。


もう戻ってこない時間は
どうしてこうも愛しくて寂しいんだろう

父が、
姿が無くなってもずっと父であるように
無くなった時間だって
ずっと私の中にあるのだからいいではないか、
と わかっているけれど
あの「特別だった時間」の記憶は
まだまだ胸をしめつける








1 Comments

しゃららん says...""
イイネ
2017.06.30 08:43 | URL | #- [edit]

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